つい最近一冊の古書を購入しました。
タイトルは「光绪皇帝的珍妃」(1989年・于善浦・紫禁城出版社)、淘宝より購入しました。
本は51元、送料は77元(高ぇ…)日本円でだいたい2,800円。
A5サイズの薄いブックレットのような本です。
薄い本からと言って侮るなかれ。様々な本から重要な引用が数多く載っていて目から鱗。
古くて自分で手に入らないものもあって本当に買ってよかったと思える一冊です。
作者は于善浦という方で、故宮博物院で研究員を務めたのち、清東陵で慈禧太后の棺を開けて遺体の調査を行ったこの道の専門家。
彼はこれまで伝聞されている珍妃が本当の彼女と乖離しているとして、北京歴史第一档案館の記録や1913年から1986年に発行された野史を含む資料を調査し、総合的かつ合理的に判断。古い本ながら珍妃とはこのような人であったのかを再認識する一冊となりました。
何回かに分けて、この本から知り得た本当の「珍妃」をまとめていきたいと思います。
「珍妃の井戸」や「蒼穹の昴」の副読本として、もしよければ楽しんでいただければと思います。
おすすめ
浅田次郎先生の「蒼穹の昴」「珍妃の井戸」あたりの背景が知りたい方におすすめの記事です。
まだ原作本を読んでいない方はぜひ。
珍妃が入宮することになった「選秀女」に関する誤解とは?
この本によると、私たちがよく映画やドキュメンタリーで見る光緒帝の妃選びも全くの間違いなのだそうです。
そもそも選秀女とは二つあり、一つは宮中で働く者を選ぶもの、もう一つは妃を選ぶためのものの両方がありました。
珍妃はもちろん後者である光緒帝の妃嬪を選ぶ「選秀女」ですが、まず以下のようなシーンを覚えている人は多いのではないでしょうか。
本書に書かれている原文を引用します。
光绪十三年冬,光绪皇帝在体和殿选秀女,备选的五名秀女中,有慈禧太后的亲侄女,还有江西巡抚德馨的两个女儿及礼部左侍郎长叙的两个女儿。慈禧太后坐在正中,旁边站着光绪皇帝,后边还有公主、福晋等人。
选中皇后者递如意,选中妃嫔者赏荷包。起初,慈禧让皇帝自选。光绪帝说:“此事应请太后做主。”慈禧执意让皇帝自己选择。当皇帝手持如意走至德馨之女面前,刚要递如意时,慈禧大声说:“皇帝!”并示意皇帝递如意给站在前排的女子,光绪皇帝哪敢违抗,于是按照慈禧之意,将如意建给了慈禧的侄女,就这样选中的皇后。慈禧想,皇帝已看中了德馨之女,如果再让她们选为妃嫔,将来会与皇后夺宠,所以,不能再让量帝选她们了,急忙命公主拿一对荷包,分赏给了长叙的两个女儿。这就是后来的珍妃、瑾妃。
光绪皇帝的珍妃
日本語訳
光緒13年冬、体和殿で選秀女が行われた。選ばれた5名は慈禧太后の姪、江西省長官 徳馨の二人の娘、礼部左侍郎長叙の二人の娘だった。慈禧太后は中央に座り、側に光緒帝、後ろに公主や福晋たちがいた。
皇后に選ばれた者には如意、妃嬪に選ばれた者には巾着袋を渡すことになっていた。初め慈禧太后は光緒帝自ら渡すように促したが、光緒帝は「本件は慈禧太后にお選びいただきたい」と言って固辞したが、慈禧太后は頑なに皇帝自身に選ばせようとした。
皇帝がまさに徳馨の娘に如意を渡そうとしたところ、慈禧太后は大声で「皇帝!」と制した。皇帝は慈禧太后の意味を理解して慈禧太后の姪に如意を渡した。皇帝が徳馨の娘を気に入っているのは慈禧太后から見ても明らかで、このままでは後宮で争いが起きてしまう。だからもう皇帝自身に選ばせず、巾着袋は侍郎長叙の二人の娘、つまり珍妃と瑾妃に手渡した。
この「皇帝!」と制して如意を慈禧太后の姪(つまり後の劉裕皇后)に渡したというところは、昔のテレビ番組「知ってるつもり」の再現映像でもこうだったことを覚えています。
この話のソースは1930年発行の「故宮周刊」の珍妃专号(珍妃特集)で太監の唐冠卿の話。やっぱりちょっと盛って話しちゃうのはいつの世も変わらないですね。
宮廷で皇帝一家に支えていた太監だから信用性が高いと思ったら大間違いだということで、実際はまず妃選びの「選秀女」が行われたのは光緒12年であり、侍郎長叙の二人の娘は参加していませんでした。この時は叶赫那拉(慈禧太后の生家)の娘が四人も選ばれ、さすがにこれでは余りにもコネがひどすぎる、と思ったかどうか分かりませんが、もう一度やり直すことになりました。
この判断を見ると慈禧太后自体も「やりたい放題の権力者」というイメージも変わりそうですね。
そして光緒14年3月22日(1888年5月2日)珍妃が選秀女を経て「嬪」として入宮しました。
北京中国第一历史档案馆に所蔵されている「宫中杂件」に記録資料が残されています。
この時の選秀女のリスト、6グループ計31名各人の出自が書かれています。
珍妃の場合は
第六名秀女,“镶红旗,满洲。原任侍郎长叙之女,子年(生)十三岁。惠昆佐领,他他拉氏。原任主事萨郎阿之曾孙女,原任总督裕泰之孙女”
光绪皇帝的珍妃
次回に続く
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