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2024.3.16 Kバレエ 熊川版ジゼル初見「ジゼル」岩井優花&ジュリアン・マッケイ

弾けるような岩井優花さんの”恋するジゼル”と余裕しかない遊び人ジュリアン・マッケイ

昨日初めてKバレエ・カンパニーの「ジゼル」を観劇しました。

ゲストにバイエルン国立バレエ団プリンシパルのジュリアン・マッケイを迎えて、本来はプリンシパルの日高世菜さんがタイトルロールの予定でしたが降板。急遽、プリンシパルソリストの岩井優花さんが代役で舞台を務めることになりました。

幕が開くとV字型の畦道から黄金色の畑が広がっており、奥行きを感じさせるセット。そしてヒラリオンとジゼルの母が和やかに会話をしているなどヒラリオンは村の一員として馴染んでいる様子を見せつつ、アルブレヒトのジュリアン・マッケイが登場。

非常に遊び人な趣きのアルブレヒト。端正な顔立ちも含め、現代的な御曹司の雰囲気。この役作りは貴族の一興として村娘とちょっと遊んでやろうと言った感じ。

対するジゼルの岩井優花さんは私は初見。手が柔らかく何よりどんなパをするときもプリエが非常に深い。膝も柔らかく靭帯も強そうでジャンプが高く美しい。キラキラとした笑顔が非常に魅力的。彼女のジゼルは登場から結構元気でおてんばそうで、アルブレヒトと腕を組んで歩いている様子は割と現代のカップルっぽかった。

熊川版はペザントのパドドゥはパドシスとなり、3組の男女が代わるがわる踊る構成。Kバレエは特に男性がピルエットやジャンプの後、ピタッと気持ちよく止まるダンサーが多く、また成田紗弥さんを中心とした女性陣もダイナミックでのびのびとした踊りが良く飽きさせなかった。

収穫祭の女王に決まった後ではなく、バチルダ姫からネックレスをもらった後にジゼルのバリエーションが入っている構成で、終盤のピケターンの合間にアラベスクターンを交え、難易度高めであるにもかかわらず岩井さんは軽くこなしていた。

マッケイのアルブレヒトはバチルダ姫とジゼルが居合わせてバツの悪いところでも、必死に取りなすような態度もなかった。

狂いながらかつてのアルブレヒトとの思い出の踊りを踊る際に、余りちゃんと踊らず足元もおぼつかない感じになるのは振り付けでそう決まっているからでしょうか。ヒラリオンが2幕で殺される時も同じで、やはりもう少し踊ってくれた方が好みです。

2幕も舞台セットは非常に凝っており、敷地を隔てる欧風のフェンスと門にジゼルとミルタのお墓があり、ウィリたちの舞台化粧は頬がこけて目の周りが黒いまさに「お化け」。しかし新入りのジゼルだけは普通のお化粧です。

ミルタの小林美奈さんが登場する際にセットにぶつかる大きな音がして心配しましたが、メイクもあり怖いミルタを堂々と好演。

2幕はマッケイのアルブレヒトのヴァリエーションが素晴らしく、アントルシャ・シスの足運びはもとより、ランベルセは破格に美しかったです。

敢えて言えばパドドゥではリフトのタイミングなどが少しズレていたようなので、初日で代役かつゲストダンサーと合わせる難しさを感じます。

熊川版は”恋するジゼル”色強く、恋愛の現実を見せつける

熊川版のジゼルは初めて見ました。何せ今まで海外のバレエ団中心で国内に目を向けたのはコロナが始まり来日する海外バレエ団が亡くなったから。その時に小野絢子さんと福岡雄大さんの新国立劇場の「眠り」(だったかな)を見て急に国内バレエ団も見るようになったのです。

ジゼルという原作に観客が理解できるように必要なシーンを入れ込んだもので、凄く納得のいくストーリーになっています。

ジゼルは身分を明かさない秘密の多いイケメン アルブレヒトに恋してしまい、自分を一途に思うヒラリオンには恋愛感情を感じられなかった。ヒラリオンはジゼルが可哀想だと思ってアルブレヒトの正体を暴いたが、心臓の弱いジゼルはショックを受けて死んでしまった。死にたてのジゼルはまだ容貌がゾンビになりきっておらず、まだ人としての感情も残っていた。ヒラリオンのことは許さず、アルブレヒトは救った…観劇後にこんなストーリーが頭を駆け巡りました。

熊川版のヒラリオンは冒頭でジゼルの母親に親切にしているシーンがあり、また村人たちとも普通に接している様子からして「変わり者」というようなイメージは払拭し、普通の平凡な村人の男性として描かれていました。

親切だけど誠実で人のいい男には恋するだけの魅力を感じないのが若い女子というもので、平凡な髭の濃い村人のヒラリオンよりよ貴族でシュッとしたイケメンと恋愛したかったんですよね、ジゼルは。なんの作品かド忘れてしまいましたが、イケメンと恋することもできずにお見合い結婚するなら死ぬみたいな漫画が…つまりは遊ばれてでも都会のイケメン御曹司の方が良かったということでしょう。

平凡な幸せの方をとった女性といえば、源氏物語の玉鬘の君が挙げられます。彼女はジゼルとは正反対。結末も玉鬘はお髭の大将と幸せになり、ジゼルは貴族で美人の婚約者もいると知って命を落としました。

ジゼルは死んで間もないため、他のベテランウィリと違って顔色も容貌も人間と変わらず、まだ人の心を持っている存在として描かれているのではないでしょうか。そう思うと勝手に好きになって(ヒラリオンとしては良かれと思ったことですが)嫌がらせをしてくる男性は無視し、騙されて悲しい思いをしたけど最愛の男性は救う。実にスンナリと腹落ちします。

そう思ってみると熊川哲也さんはよく女性のことを見ておられますよね。しかしあまりに現実的で男性には少々酷な物語に思えますけど…(苦笑)

  • この記事を書いた人

Satsuki Nosaka(乃坂皐月)

幼少期からバレエを習い、中学生の時に文化庁の日中国交20周年記念の中国公演に参加。大学受験とともにバレエをやめ20キロ太る。 宝塚歌劇はまんべんなく観劇。個人レッスンと中国時代劇でゆるく中国語学習中。先日念願のミニドラマ翻訳を行う。 本業はWeb関連会社の代表。 学生時代からの目標である満員電車に乗らないで生活することを叶え、Web業界でのサラリーマン生活の後、起業。

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