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2025年 新国立劇場バレエ団「ジゼル」

2023年の初演から2年ぶりの再演であり、この夏に英国ロイヤルオペラハウスでの公演が予定されている新国立劇場バレエ団の「ジゼル」。

小野&福岡、本拠地全幕復帰の米沢&井澤、木村&渡邉、柴山&速水、池田&奥村の5キャストで、池田&奥村以外は各2回づつ上演。

私は木村&渡邉以外の4キャストを観劇してきました。

前回2023年の時は小野&奥村、柴山&井澤と見まして、初めて柴山紗帆さんを知った公演でした。
当時の柴山さんのジゼルと井澤さんのアルブレヒトがとても素晴らしくて、じんわりと後から感動が込み上げてきたのを非常によく覚えています。

さて今回のキャストが発表された時、前回とはペアがシャッフルされていたので驚きました。

米沢さんと井澤さんは「くるみ割り人形」でもパートナーリングがとても良かったのですが、問題は柴山さんと速水さん。

リフトのタイミングが合っていないことも多く、くるみ割りでヒヤッとするリフトがあったり、昨年のバヤデールではスムーズにいかないパートナーリングから速水さんがバリエーションで本当に珍しく大きく調子を崩したこともありました。バヤデールの時は速水さんスランプか?と思うほどのぎこちなさなどがありました。

同日にプリンシパルにプロモートされた二人であり、背丈も合う。そして手足の長く洗練された柴山さんとダイナミックな速水さん。基礎に忠実なバレエを見せる二人は呼吸さえ合えば、スケールの大きなコンビになりそうなので、バレエ団が組ませたい意図も感じます。

また事前にYouTubeライブで木下嘉人さん司会でリハーサル動画の配信もあり、前半は吉田都監督と小野絢子さん、福岡雄大さんの主役ペア、後半は湯川麻美子さん、遠藤睦子さん指導の2幕のコールドバレエといった内容でした。

木下さんが舞台では見られないほどの緊張でガチガチという、なかなかレアなシーンも見られたと同時に、あの絢子さんでもあれだけの指摘が入るんですよね。動きを止めて一つ一つ向き合う。

バレエというものはコツコツと積み上げたものこそが花を咲かせることがよくわかります。

今回、心臓疾患での休業そして本拠地での全幕復帰を果たした米沢&井澤の回は観客もとりわけ熱狂的でした。自分が見た舞台の過去の名演を塗り替えるほどの素晴らしさであることはもう間違いないです。

井澤アルブレヒトがジゼルを「遊び」だとは思わない役作りに米沢ジゼルも呼応し、死んだばかりでウィリになりきれない人の心をもったジゼル。あらすじにある「罪の意識で墓にやってきたアルブレヒトを変わらぬ愛で優しく許す。」花を降らせて“あなたを守ってあげますよ“といっている様な人の心が通っているジゼルは初めて。救われても許せる井澤アルブレヒトだから感情移入も容易く、観客にも愛を与えているかのような体温を感じるジゼル。花を降らせるシーンで暖かいオレンジ色のオーラが確かに見えました。

天皇陛下が来場した小野&福岡主演回。儚くも懸命に生きるような小野ジゼルにこの度は予想を裏切って意外と!?誠実な福岡アルブレヒト。より悲劇が強調される展開であった。絢子さんのジゼルはきっとウィリに魅入られて死ぬ運命にあったような感じ。1幕よりウィリの素質抜群の軽くて美しい舞姿。ショック死する場面もまるでアルブレヒトの手から命が滑り落ちていくかのような非現実感。もはや1幕より半分アチラの世界に足を突っ込んでいたのではないかと思わせ、バッカスに扮した子供が直感で冠を渡すのも合点がいく。

ベテラン演技派奥村さんと池田さんの回。池田さんは他のジゼルに比べ幼く、奥村さんのアルブレヒトは貴族として所作や在り方について解像度が高く、「ちょっと面白いから」平民に扮して二重生活をこなす様で基本的にダンスールノーブルが目指すべきアルブレヒトだった。役作り的に年齢差を感じ少女を騙した感が拭えなかったのがペアとしての惜しいところ。

柴山ジゼルはあまり調子がよくなくて、「エチュード」で見せたような抜群のポワントバランスは影を潜め、なんとか持ち堪えながら踊り進めるという不利な状況だった。固唾を飲んで見守っていた2幕の水平リフトを軽々とこなし、滞空時間も長く、降ろす動作も非常に美しかった。2幕に行くほど調子が出てきた感。速水さんは成長著しく、リフトに関しては4組の中でナンバーワンだった。若さ快活さを全面に出した速水アルブレヒトは、2幕のバリエーションのアントルシャシスが正確で美しい。生の舞台では過去、ロベルト・ボッレ、マチアス・エイマンらのシスの連続で非常に感動した。私の母などは「シスを連続しないアルブレヒトは死にそうになくてダメだ」なんて言う。速水さんだけでもロンドンはシスの連続にしてはどうだろうかと提案したくなる。

コールドバレエも幕が開いた時から秋の動く絵画のようでざわめきが聞こえてくるよう。ウィリも粒揃いでコールドの先頭がザハロワと思しきスタイルの持ち主である内田美聡さん。ドゥウィリには直塚さん、花形さん、東さん、飯野さん等実力派がしっかりと支える。

ペザントは奥田&水井組が技術的にも安定し、自然に流れに溶け込むようで特に良かった。石山蓮さんがクリアな足さばきで一つ上のレベルに。

2幕の水平リフトは池田&奥村組が残念ながら一度落ちてしまったが、小野&福岡も少々危なかった。オペラグラスで見ていたら絢子さんは落ちそうになっても絶対に下を向かず、福岡さんも気合を入れ直したかのように見え、これぞプリンシパルの意地を感じた。

ちょうど昨日、ロンドン公演のキャストが発表されました。

米沢&井澤の2公演は納得ながら、奥村康祐さんのお名前が…ない。

彼は大変な演技派で役作りの造形が深く王子からガマーシュまで守備範囲が非常に広い。いつもさまざまな役で楽しませてくれる奥村さんの登板がなく本当に残念です。今回の小野さん奥村さんのメインビジュアルとっても素敵なのですが、ビジュアルに起用しているダンサーが「降板」ならわかりますが、「使わない」というのが不自然にも思えます。

そして個人的には…唯さんの回のミルタは根岸さんの方が、踊りの質的には合うのではと思います。

今回ジゼル4公演は座って見てるだけなのにまあまあキツいですね…精神的に。東バの秋山瑛さんがファンミで初めてジゼル踊った時は気持ちの持って行き方が大変だったみたいなことも言っていたので、演者の方はもっと大変なのでしょう。

来月の東京バレエ団の「ジゼル」も2週間後に迫っています。

  • この記事を書いた人

皐月

本業はWeb関連会社の代表。 学生時代からの目標である満員電車に乗らないで生活することを叶え、デザイン・Web業界でのサラリーマン生活の後、起業。 幼少期から大学受験まで習っていたバレエ・宝塚など毎年観劇多数。 中国清朝時代とその時代のドラマ愛好家。 美容愛好家(薬機法管理者・コスメ薬機法管理者・化粧品成分検定1級)

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