「とうとうとべに」まずタイトルの字面の美しさに惚れ惚れしませんか。
吉原遊郭の暗闇から赤い照明がぼんやりと見えるようなイメージが真っ先に浮かんできました。
しかし「滔々と」は表現力の乏しい私にとって、聞き馴染みがないため意味を調べてみましたが、滔々と(とうとうと)とは、水や話などがとめどなく流れる様を表すそうです。
そして紅はやはり遊女を連想させます。襦袢、口紅、血の色…。「滔々と紅」はつまり「遊郭の花魁の人生を連綿と綴ったもの」であり、吉原遊郭の末端まで生き生きと感じられる漫画になっています。
貧しい小作人の娘から吉原遊郭の花魁へ
主人公は貧しい農家の口減らしとして吉原に売られた駒乃。とにかく跳ねっ返りでめちゃくちゃ気が強い。
楼主にも反抗する。姉さん花魁にも楯突く。
でも運があって、貧乏を耐え抜いた根性もあって、頭の回転が早く、本当は花魁見習いなんて無理な容姿であるはずなのに、次第に楼主も「こいつを育てよう!」なんて言ってどんどん良い方に。
最初はお顔も結構おブスに描かれてるんでが、時間経過とともに「あれ、美人じゃない?」って思うほどキレイな顔になっていきます。
時間経過とともに他人から見える容貌が変わっていったことを表しているのでしょう。
楼主に折檻されても耐えてめちゃくちゃ健気って思う以上に気の強さが目立つ女性です。
「生きてここを出るんだよ」苦界に一抹の救いを与えるダブルスタンダード
「生きては苦界、死んでは浄閑寺」という言葉を聞いたことはないでしょうか。
遊女は年若いうちに借金の形として身売りされ、年季が明けるまで結核や梅毒の恐怖に怯えながら重い借金のために身体を売り続けなければなりません。
運よく生きて借金が完済できれば吉原大門から出られますが、売上の良い花魁以外は栄養のあるものを食べることができず、病に倒れ引き取る親族もなく、浄閑寺送りになる女性がたくさんいました。
姉さん花魁の翡翠花魁の「生きてここを出るんだよ」という言葉は駒乃に対するエールでもあり、この作品の芯に通っているテーマであるとも感じ取れました。
花魁は不幸な病や心中で死んだのではなく、恋人と足抜けして「遊郭楼主の建前上、死んだことになっているが実は生きている」という救いのあるストーリーが盛り込まれていることは実はちょっと新しいなと思っています。
今まで遊女のストーリーは不幸な境遇に御涙頂戴系がスタンダードだったからねえ・・・。
どんなに運が良い人も限りがある
駒乃はいわゆる「遊女の勝ち組」といえばそうです。天運があって、人にも恵まれて、さあこれからという時に「運の限り」というものを我々は知らされます。
せっかく苦界を出たのに、なぜこんなに早くこうなってしまったのだろう。
切なすぎるんだこれが…。長くない漫画なので、結末はご自身でお読みいただきたい。
「吉原炎上」より幸せになる花魁が多くてちょっとほっこり
最後に、映画「吉原炎上」が好きな方にはぜひみてほしい一冊ですね。
私も「吉原炎上」は何度も繰り返しみていますが、あちらは九重花魁を除いては概ね何かしら問題がありますが、こちらの作品はさしづめハッピーエンド版と言っても過言ではないでしょう。
時代は「滔々と紅」の方が先ですが、ともに明治の吉原遊郭を舞台にした作品です。
こちらは小説が原作であるため、後日読もうと思います。
駒乃の人生は運もありますが、姉さん花魁や禿など上下を問わず人に恵まれた人生でもありました。
彼女の人生を追体験することで、自分を支えてくれている誰かに気付かされるかもしれません。
\どんどん本を試し読みしたい時に最適です/